生活

日本にキリスト教は育たない

crucifix illustration

幼い頃曾祖母が死んだ。

それまでも何度か葬式に行ったことはあったので、人が死ぬことは私にとって珍しくなかったが、その日がいつもと違ったのは家族が私を教会へ連れて行ったということだ。

そう、曾祖母はカトリックだった。

私は見慣れない神父を前に「どうしてひぃおばあちゃんは寺で葬式をしないの?」と父に尋ねた。父は「それはおばあちゃんはカトリックだからだよ」と答えた。

しかし私は納得ができないので「どうしてカトリックだと違う方法で葬式をするの?」とまた質問した。子供特有のむずがゆい質問にすこし苛立った父は「宗教が違うと天国への生き方が違うから、キリスト教の人は基督教の教会で葬式をして天使に天国まで運んでもらわないといけないんだよ。お前だってゲームセンターに行きたいのに、学校に連れていかれたらいやだろう?」と静かに答えた。

これが私のカトリックとの不思議な出会いだった。そして私がキリスト教に対して考えるようになるきっかけでもある。

Japan - Religion | Britannica
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日本でキリスト教はとても有名であるが、信仰する人は大変少ない。信者数は人口のおよそ1%。アメリカに住むユダヤ教徒と同じくらいの比率だ。だからカトリックの家族に生まれるのはとても珍しいことなのだが、さらに珍しいこと私の家にはカトリックと仏教徒が混在していた。

まず、祖母と祖母の両親、そして叔父は洗礼を受けたカトリック。そして父と祖父、そして私の母の家族は仏教と神道を信仰している。まるでユーゴスラビアの家族のようなものだ。当の本人である私は洗礼は受けてはいない。ならキリスト教とは縁のない人間なのかと聞かれればそういうわけでもない。実は子供の頃は教会に通っていたのだ。それもプロテスタントの教会に。

結局私が子供の頃教会に通っていた期間は2-3年だろうか。この生活が始まるきっかけは日曜日家の掃除ができないことを苛立った母が私にキリスト教学校に行くよう命令したからだ。母はスペインに留学していたこともあってキリスト教が好きだったが、それはファッションのようなもので大してプロテスタントとカトリックの違いが分かっていなかった。だから彼女のせいで私は家族はカトリックなのにも関わらずプロテスタント的な考え方をキリスト教に対して持つ複雑な人間になってしまった。

つまりこうだ。私はプロテスタンティズムから勤勉さを学んだ。しかし実際に家族が死んだときに行く教会はカトリックであり、そしてストレスがたまると寺で瞑想をする。地震が起きれば恐怖のあまり神道の神々に祈るわけである。もはや私の頭の中は宗教のスープだ。具材のようにそれぞれの宗教が混ざっていて原型をとどめていない。だが、今は一つの結論としてこれこそが日本人の文化であり宗教の形なのだろうと思っている。

話は変わるがマーティン・スコセッシの「沈黙」という映画を知っているだろうか?日本に来た二人の宣教師が日本のキリスト教の信仰について考えるという内容だ。この話のなかであるポルトガル人は日本についてこのように話している。

「この国は沼地だ。やがてお前にもわかるだろうな。この国は考えていたより、もっと怖ろしい沼地だった。どんな苗もその沼地に植えられれば、根が腐りはじめる。葉が黄ばみ枯れていく。我々はこの沼地に基督教という苗を植えてしまった。」

これは私を強く納得させた。私自身がプロテスタントもカトリックも仏教も溶かして神道であえたスープにしてしまったからだ。

そしてきっと日本という国もそうなのだろう。日本は外国の文化を受け入れることはない。なぜなら外国の文化を溶かしてしまうからだ。つまり仏教もキリスト教も日本人の興味のある部分は受け入れられるがそれ以外はみんな腐って忘れられてしまうように、外国の文化も日本人が興味を持つこと以外はすべて腐ってしまう。日本人には外国から来た文化を正しく全て理解したいという気持ちがないのだろう。だが、逆に言えばだから我々は中国人にならなかった。非常にオープンマインドで、新しいことをどんどん知りたい人間たちばかりであったら日本人は今頃中国の一部だろう。だが日本人はある意味頑固で自分の知りたいことしか文化を吸収しないので日本人という別の文化を維持したのだ。それはまさに私がキリスト教に接していたのにキリスト教になることがなかった理由と同じだ。

今日も祖母は死んだ祖父のために線香をたく。これは仏教の行為だが祖母は祖父のためにこれを行う。本当にキリスト教を信じていれば祖母はそんな行動に意味がないと思うだろう。だが、彼女もまた日本人だ。おそらく洗礼を受けていたとしても彼女もまた「溶けて形の変わった日本カトリック」を信じているのだろうと私は考えている。

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