リストの中には10人ほど総合商社に就職した卒業生たちの名前とメールアドレスが書いてあった。これこそがこの大学の宝物だ!そそくさとリストをiPhoneで撮影し、私はほくそ笑んだ。まだ友人たちはこのリストを知らない、知っているのは自分だけだと思っていたのだった。
善は急げだ。すべての人に自分も総合商社に入りたいこと、そしてそのためにはどんなことをすればいいのかを知りたいとメッセージを書き、片っ端からOBに送った。10人に送ったのだから1人くらいは私に返信してくるだろうと予想し家に帰って返信を待った。
夜、風呂から上がると一通のメールが届いていた。ビンゴだ。あのリストの中の卒業生からのメールだった。しかも働いている企業は私が行きたい総合商社。ツキが回ってきていると確信,した。
「あなたのメールを今読みました。早速ですがラインを持っていますか?そこで話しましょう」
トントン調子に話が進むじゃないか!。すぐさま自分ラインIDを相手に教えると電話がかかってきた。やはり仕事のできる男は行動が早いのだなと感心しつつも、私は緊張しながら電話に出た。
だが彼の口調はぶっきらぼうだった。
「こんばんは。で、突然なんだけどなんで総合商社にはいりたいの?金?女?権力?なんのため?」
絶句した。頭が彼の言葉を理解していなかった。一体この人は何を言っているんだ?
「私は国際的な仕事をしたいと思っているんです。だから総合商社がいいと思っています」
男はイラついた声で一言つぶやいた。
「そんなこと、誰だって言えるんだよ。君もう少し自分の人生について考えたほうがいいよ。そんな薄っぺらい人間じゃうちには入れない。もっと面白い人間になったらまた電話してください」
ぶつりと通話は切れた。ツーツーという音と一緒に私は一人茫然と家の中で携帯を握りながら立っていた。一体何だったんだ・・・?
後に、この不躾な男に腹が立ったが、今振り返ればその男がイラついていたのもなんとなくわかる気がする。総合商社はそのステータスの高さから毎年たくさんの学生が働きたいと考えるが、多くの学生の想像するイメージと実際の仕事内容は大きく異る。東京の高層ビルの上からコロンビアに電話をかけてコーヒーの先物取引をするものだと思っていたら、チリの鉱山で鉱夫と一緒に安全確認していたなんてことも起こるのだ。

そのためステータスだけを求めて入社した学生はそうそうに潰れることが多い。彼は私の浮ついた心に気がついていたのでこんな厳しい言葉をかけたのだろう。本来であれば私は「自己分析」をしっかり行うべきだったのだ。
次につづく。